病院に居た頃、実習指導を担当するたびに、看護学生に治療的別れをするよう伝えていました。それは看護の実習は三週間に渡り一人の患者さんとマンツーで接するため、距離がぐっと縮まります。しかし実習が終了した瞬間から会うことがなくなります。治療的別れとは、実習を通して学んだことや感じたことを率直に伝え、お互いの思ったことや感じたことを共有することで、心おきなく関係を終結させることにあります。訪問看護も同じです。ある方が、色々な条件が重なり極度の不安から精神症状が一気に出現、外に一歩も出られず受診すら難しいの中、訪問看護がスタートしました。スタート当初は予期不安が強く、薬一粒飲むのも怖がり、家族も一緒に不安になるなど、特別指示での訪問も検討するほどでした。しかし、少しずつ回復に向かわれました。回復とは、ご飯が食べれるようになった。電話をとれるようになってきた。散歩ができるようになってきた。疲れが少しとれてきた。以前なら普通にできていたことばかりのため、本人や家族では実感できない場合が多い。そのため、訪問の度に小さな変化を伝えてきました。訪問看護は一対一のかかわりからスタートします。ここで信頼関係ができると、他も大丈夫かも?思えてきます。そんなことを繰り返す中、1年かけて回復されました。主治医にも相談し、本人から訪問看護を終了したいと申し出があり最後の訪問を終えました。最後の訪問は一年を笑顔いっぱいで振り返りました。そして、硬く握手をし二人とも目をうるうるさせてお別れしました。その方の今後の人生を訪問という形で見守ることができなくなった喪失感はありますが、その方の人生の一部分にかかわることができたことに感謝しかありません。ありがとうございました。